アシュケナジム(アシュケナージ)系ユダヤ人

皆さんが「天才科学者」と聞いて思い浮かぶのは誰ですか? 大昔の偉人ならガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートン、 つい最近ならスティーヴン・ホーキングといった名前が挙がってくるかもしれませんが、ほとんどの人が名前を挙げるのはアルベルト・アインシュタインではないでしょうか?  「相対性理論」……凡人の私には全く分かりません!

アインシュタインはユダヤ人です。俗に言う「ユダヤ人」には複数の民族が存在し、スペイン系の「セファルディム系ユダヤ人」と東欧系の「アシュケナジム系ユダヤ人」 に大別されるのですが、アインシュタインの家系はこのアシュケナジム系です。このアシュケナジム系ユダヤ人、実は高知能集団とも呼ばれ、 実際にアインシュタインのような「天才」と呼ばれる人物を驚くほど多数輩出しているのです。精神医学者のジークムント・フロイトもそうです。

ベストセラーとなり、2017年の新書大賞を受賞した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』(橘玲 新潮新書)という本があります。 その中で「遺伝にまつわる語られざるタブー」と題して、往々にして努力は遺伝に勝てないことが科学的データを示しながら論じられており、 このアシュケナジム系ユダヤ人の話も詳述されています。この本では、この民族が高知能集団である理由として、 東欧諸国に移り住んでいった際に激しい差別によって人口が抑制されたこと、だからと言って絶滅に向かうのではなく多産により人口を維持したこと、 そして他民族との婚姻の禁忌というユダヤ教独特のしきたりがあったこと、 そんな閉鎖コミュニティーで数十世代のうちに知能に関する遺伝子構成にイレギュラーが起きた可能性を述べています。

これは、アシュケナジム系ユダヤ人のコミュニティーにおいては、極度の近親結婚が頻繁に行われていたということです。 つまり、この極めて高い知能集団こそインブリーディングのプラスの効果ではないかと考えられているのです。 今日のアシュケナジム系ユダヤ人は、祖先である中東人の特定遺伝子の保有率がいまだに高率であるとのことからもそのことが窺えます。

一方でアシュケナジム系ユダヤ人は、テイサックス病、ゴーシェ病といった重篤な遺伝病の発生率が他のヨーロッパ人に比べて100倍近く高いとのこと。 これこそインブリーディングにおける「諸刃の剣」なのかもしれません。

近親交配(インブリーディング)とは何か?(その1)」のところでも述べたとおり、 インブリーディングはメリットとデメリットを併せ持っています。 私の伯父夫婦はいとこ同士で、その子(←私から見たらいとこ)が遺伝病を発症して最初の誕生日を待たずに死亡した話もそこに述べましたが、 日本の地方小集落においても、同様の悲劇が現在も繰り返されているのかもしれません。 実際、臨床の現場にいる医師でさえ、遺伝学に精通している(つまり近親結婚のリスクの科学的メカニズムをきちんと理解している)者は少ないと思って間違いありません。 遺伝学は依然特殊な分野であるからです。これらのことからも、我々自身がそのリスク発生の理由をきちんと科学的に理解すること、 つまり最低限の「遺伝」の基礎知識を持つことは、我々の実生活において非常に重要であるということなのです。

(2018年9月1日記)

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